Home > 森林保全事業 > 財団レポート > 財団レポートPART2「囲いワナを用いたエゾシカの捕獲」

森林保全事業
Forest Preservation Activities

財団レポートPART2「囲いワナを用いたエゾシカの捕獲」


囲いワナを用いたエゾシカの捕獲

(文:新井田利光、西田力博)

1 はじめに

 阿寒湖の約3分の2を取り囲む当財団の山林約3,600ヘクタールは、昭和の終り頃からエゾシカの深刻な被害に悩まされてきた。その被害の実態などについては本誌(1)に紹介されたことがあるが、その後も狩猟や有害駆除などが行われているにもかかわらず、冬期間、阿寒湖周辺に集まるエゾシカの数は一向に減少する気配を見せず、山林は依然として危機にさらされている。
 この危機的な状況は、緊急避難的に実施しているビートパルプの給餌などによって、かろうじて回避してきているが、根本的にこの状況から脱するためには、エゾシカに減ってもらうしかない。
 このため、様々な対策を考えていたが、その中でも特に、囲いワナによる捕獲について以前から注目をしていたところ、林野庁の16年度の補助事業として、当財団の山林で実験的に実施する方向で調整が進んだことから、財団として、事業を受け入れるために必要な条件の整備に向けて、旧阿寒町や様々な分野の人たちに働きかけをした。その結果、町内に「阿寒エゾシカ研究会」が立ち上がり、エゾシカ被害の防止と地域産業の振興の観点から一時養鹿場の整備と肉生産までの一貫したシステムが一気にできあがった。
 平成16,17年度、国や道をはじめ関係者から様々なご助言をいただき、また、財団としても、試行錯誤を重ねながら実行した結果、予想以上の成果が得られたことから、囲いワナの構造も捕獲の方法も必ずしも完成したものとはいえないが、エゾシカの被害対策や有効活用の取り組みに何らかの参考になればと思い報告するものである。


2 囲いワナによる捕獲

図-1 位置図

 当財団の山林は図-1のように阿寒湖、阿寒湖温泉を取り囲むように立地しており、この山林を越冬地として、11月頃から多くのエゾシカ(以下シカという)が集結してくる。 このため、やむなく平成11年度から当財団の管理下で猟銃による個体数調整も行ってきたが、観光客への配慮やシカの採餌行動が夜型になることなどから、思うような成果をあげることが出来なかった。このため、言わば最後の手段として、囲いワナによる捕獲に本格的に取組むことにした。
 捕獲のワナについては、「ニホンジカ捕獲ハンドブック」(2)に、シカの生息状況や捕獲目的などに合わせた様々なものが紹介されているが、これによると、当財団が設置したワナは「大型の囲いワナ」に属し、同種のワナはこれまでも洞爺湖や知床で設置されたことがある。
 当財団の囲いワナの設計や捕獲方法については、これらの実践例や専門家の意見を参考にしながら、これまで財団が蓄積してきたシカについての知見をもとに、独自の工夫も取り入れながら、試行を重ねてきた。
 現在の財団の捕獲作業の大きな流れは次のようなものとなっている。


囲いワナへの誘引・馴化のための給餌  ⇒  囲いワナの設置  ⇒  囲いワナの設置後の馴化・給餌

捕獲  →  給餌  →  テレビカメラによる監視  →  遠隔操作による吊るし扉の閉鎖

    仕分けスペースへの追い込み  →  仕分け(→ 放逐)  →  輸送箱への追い込み  ⇒  搬出


3 囲いワナの構造

 全体の構造は図-2写真-1のとおりで、大きくは①誘引・確保スペース②一時追い込みスペース③仕分け・搬出スペースの3つに分かれる。(なお、囲いワナの各部の名称や作業名は必ずしも一般化されたものがないことから、ここではその機能等から仮につけた名前を用いた)。


図-2 囲いワナ全体図

(1)誘引・確保スペース
 1)規模、形状
 囲いワナの大きさについては、設置場所の地形などにも左右されるが、当財団では、16年度の実行過程で、確保したシカを長時間ワナ内に放置するとシカが興奮する傾向を確認したことから、17年度は、確保したシカは長時間放置せず、短時間(1時間位)に運び出すことが重要と考え、一回の搬送能力に合わせた頭数を確保できるような大きさにすること、さらに、追い込み作業も少人数で行えるような大きさとすることを基本に、平均的な大きさを奥行き約15m、幅は約20mとした。
 また、形状は、追い込み作業の際に、シカがスムーズな流れで一時追込みスペースに入り込むように、楕円形の流れるような形状とした。
 2)壁の構造
 壁の構造は外側を網(ここでは漁網)、内側にいわゆるブルーシートを張る2重構造で、ブルーシートは外側の風景を遮断し、追い込みの際、外に逃げようと壁に向かっての突進を防ぐためのものである。
 高さは、積雪を考慮し、網は4m、ブルーシートは2.7m、支柱は立木を活用し、適当な位置に立木がない場合は丸太を立てた。
 3)誘引扉(エゾシカ出入口)
 この扉(縦1.8m×横1.8m)は、滑車で支えた落とし扉となっている。この扉の開閉は遠隔で操作する仕掛けとなっている。遠隔操作と言っても単純なもので、扉を吊り上げたワイヤーを滑車を通しながら、シカに動きを察知されないような距離(約100m位)まで引っぱっておくものである。
 4)作業用扉
 作業用の出入口で、作業員の安全を確保するため内開きの構造(ワナ内に入る際の盾の役割)となっている。
 5)テレビカメラ
 誘引・確保スぺース内のシカの動向を監視し、誘引扉の閉鎖のタイミングを図るためのものである。スペース内の頭数、特に危険な枯角オスジカが何頭入っているかなどの情報を得ることができ、捕獲作業を効率的かつ安全に行う上で不可欠な装置である。

(2)一時追い込みスペース
 シカを一時的に狭いこのスペースに追い込み、運動を制約し、次の仕分け・搬送スペースへの送り込みを容易にするためのスペースである。壁の内側はコンクリートパネルで強化している。

(3)仕分け・搬出スペース
 枯角オスジカとメスジカなどを混在させて搬送することが出来ないことから、オスジカは小型の輸送箱、メスジカなどは大型の輸送箱で搬送するが、その仕分けをこのスペースで行う。
 構造は図―2写真-2のようになっており、①から③までの3個の小スペースで構成され、③のスペースから輸送箱に送り込む。
 それぞれの小スペース間には扉があり、さらに、各小スペースには危険なオスシカの放逐などのための外開きの扉も用意してある。
 小スペースの大きさは幅3.6m×奥行1.8m×高さ2.3m、スペースが狭いことから誘引・確保スペースのような高さを必要としない。足場用の鉄管とコンクリートパネルで作ってある。
 このスペースの側壁の中段に作業用の足場が設置されており、この足場上から仕分け作業を行う。
 このスペースの現地設置には多くの労力と時間を要することから、トラックで持ち運びが可能なコンテナ形式のものを試作し1ヶ所に設置してみたが、結果は良好であった。


写真-1

写真-2

(4)輸送箱
 1)小型輸送箱
 大きなオスジカで1頭、小さいもので2、3頭収容出来る。入口正面は金網となっており、パネルを差込み暗室状態にすることも可能で、大きさは幅0.6m×奥行1.8m×高さ1.5m、鉄骨とコンクリートパネルで作ってある。
 2)大型輸送箱
 最大で約20頭収容出来る。これも入口正面の一部が網となっており、小型輸送箱と同様に明かりを遮断することができる。大きさは幅1.8m×奥行1.8m×高さ1.5m、小型、大型ともトラック備え付けのクレーンで吊り上げる。


4 捕獲作業

 平成17年度は図-1の位置図にあるように4箇所に囲いワナを設置した。
 捕獲の作業は次のように行う。
(1)誘引・馴化
 捕獲作業の前段の重要な作業として、シカをワナの設置場所に誘引するための給餌と囲いワナ設置後の給餌・馴化の工程がある。
 当財団では、平成11年度からビートパルプ(ビートの搾り滓:大きさは35cm×35cm×70cm、重量60kg)の給餌を行ってきており、初年度から良好な捕獲実績を上げることが出来たのは、この給餌による人馴れが影響したのではないかと考えている。
 囲いワナ設置場所への誘引のための給餌をどのように行うかについては、それぞれの場所で試行しながら決めていくしかないと思われるが、ちなみに、№2の例では、給餌は平成11年度から行っており、囲いワナへの誘引・馴化の給餌は12月15日から開始、囲いワナの設置は12月20日から1月9日の間の6日間、設置後の馴化・給餌は1月10日から3日間行なった。
(2)捕獲の給餌
 誘引・確保スペース内に、力の強い少数のシカに独占されないよう数箇所に分け、摂食状況を見ながら捕獲期間中きらすことなく給餌する。
(3)テレビカメラによる監視、吊るし扉の閉鎖
 16年度はテレビカメラを設置していなかったことから、扉を閉鎖はしたが、シカが1頭も入っていなかったことがあったため、17年度はテレビカメラを設置した。
 これによって、扉を落とすタイミングを的確に判断することが出来るようになった。
(4)追い込み
 数名の作業員が手製の木製盾を持ち、時には大声を発しながら、一時追い込みスペースに一気に追い込む。スペース内での逆走もなく、追い込み作業はスムーズに行われた。
(5)仕分け
 一連の作業の中で最も時間と神経を使うのはこの作業である。
 安全上、スペース内での作業は難しいことから、仕分け・搬出スペースの中段に設置した足場上から、主にさすまた(様々なものが販売されているが、大きさと形状を特注したものを使用した)を用い、枯角のオスジカとメスジカなどを仕分けしていく。
 作業する上で危険な枯角のオスジカは逃がし扉から放逐することもある。
 この作業は枯角オスジカの存否によって大きく作業効率が左右されることから、誘引の際に枯角オスジカを入口で排除する仕掛けを工夫する必要があるかもしれない。
(6)搬送
 搬送は一時養鹿をしている会社が担当した。一時養鹿場までの搬送時間は約1時間と比較的短時間であったことから、シカの体力の消耗などによる問題は特に生じなかった。
(7)安全作業の確保
 シカはおとなしい動物のようにみえるが、枯角のオスジカは非常に危険であることから、作業員の安全確保には最大の配慮をしなければならない。このため安全第一の作業を徹底するとともに作業員全員が防刃チョッキ(メーカーによるシカ角の貫通試験を行なったもの)を着用した。


5 捕獲実績

 平成17年度の捕獲実績は次のようになっている。

囲いワナ 設置箇所
(林班)
捕獲期間
(月/日)
捕獲回数
(回)
捕獲数
(頭)
平均捕獲数
(最少/最大)
1 94 1/27~2/14 6 140 23(17/25)
2 92 1/23~3/31 12 223 19(6/27)
3 89 2/3~3/8 7 57 8(2/13)
4 77 2/10~3/31 7 119 17(10/34)
    32 539 17(2/34)

(注)捕獲数には放逐したシカ83頭は含まない。
(注)平成16年度実績は2箇所設置、捕獲頭数は221頭(放逐数は除く)。


6 おわりに

 今回紹介した事例は、囲いワナの規模や捕獲頭数などは、一時養鹿施設の収容能力等に制約され、比較的規模の小さなものとなっているが、囲いワナによる捕獲は、条件が整えば大量に捕獲できる可能性がある。特に、シカが集中する越冬地や猟銃の使用が制約されるような地域では効果的な方法と考えられる。
 この捕獲事業は(有)前田一歩園林業と一体的に進めているもので、技術的には、更に改善を重ね、より良いものを作り上げていきたいと考えているが、今後、全道各地でこのような取り組みが出てくるものと考えられることから、これらのノウハウを北海道等の公的な研究機関が蓄積し、技術の確立と普及を進めていただくのが最も良いのではないかと考えている。
 平成16、17年度の事業の実施にあたっては、林野庁、北海道庁、釧路市阿寒町行政センター、東京農業大学生物生産学部、阿寒町エゾシカ研究会、北泉開発株式会社、エゾシカ実験牧場佐藤健二さんをはじめ多くの皆様のご支援をいただいて進めることが出来ましたことを感謝申し上げます。

参考文献
  1. 高村隆夫「阿寒湖カルデラ・エゾシカ奮闘記」北方林業2001 No.2~4
  2. 北海道環境科学研究センター、(独)森林総合研究所北海道支所「ニホンジカの捕獲ハンドブック」2006年3月

○ こちらは「北方林業」2007 Vol59 No.5に掲載されたものです。