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森林保全事業
Forest Preservation Activities

財団レポート


エゾマツの造林

(文:新井田利光、西田力博)

財団森林とエゾマツの造林

図-1
財団管理森林と調査林班

 当財団の管理森林は約3,600haで、阿寒湖を取り囲む地域(雄阿寒岳山麓を除く阿寒湖周囲の約3分の2)と阿寒川周辺の地域に大別される(図―1)。
 森林の内容は、天然林が約2,600ha、人工林が約1,000ha、蓄積は平均でha当たり約260立方メートル(96年調査)、天然林は樹冠疎密度70%以上の密状態のものが大部分を占める。
 約1,000haの人工林は昭和40年代以降に阿寒川地域を中心に植えられたもので、造林樹種は全てがアカエゾマツであったが、平成13年から試行的にエゾマツ造林を始め、その面積は5haとなっている。
 また、天然林内への植込みも一貫してアカエゾマツを使ってきたが、平成14年度からエゾマツの植込みを試行し、その面積は約27haとなっている。
 当財団の天然林の針葉樹資源としては、トドマツが最も多いが、エゾマツは財団森林内に広範に分布し、その生育状況も極めて良好なこと、また、経営目標として“300年前の阿寒本来の森林に戻す”ことを掲げており、人工林もまた天然林と同様に人工林としては超長期の伐期とすることとしていることから、当財団森林に適した針葉樹としてエゾマツをあげないわけにはいかない。
 アカエゾマツの造林については、長伐期とするための間伐方法などについてはまだ未確立であるが、造林としてはある程度実績を重ねてきていることから、多様な樹種構成の森林を作るために、エゾマツの造林を試行したものである。
 この度、北海道林木育種協会から、エゾマツ造林の実態を報告してみないかとのお話があったことから、簡単な調査をし、生育状況などについて報告するものである。

(1)エゾマツの造林実績
 財団森林産の種子を用い雄武町の種苗生産業者に委託生産した苗木によりエゾマツの造林を始めたのは平成13年からで、その後、平成17年までの5年間造林を継続したが、苗畑で強風などの気象害が発生し、苗木の確保が難しくなったことから、平成18年以降は造林を中止せざるを得ない状況にある。
 人工造林及び天然林植込みの造林実績は表―1のようになっている。

(2)積雪などの気象条件
 阿寒湖における1979年から2000年の間の最大積雪深さの平均は119cm、降雪の深さ合計の平均は678cm、降水量の平均は1,207mm、最低気温の平均は2,3月のマイナス17.3℃となっている(気象庁統計)。

 表-1 エゾマツ造林地の概要

区分 林小班 面積
(ha)
植栽年
(林齢)
植栽密度
(ha)
環境因子など
人工林 3080-12 1.00 H17(5) 2,000 上木無 傾斜5度 南西
3088-27 1.00 H16(5) 2,000 上木無 傾斜10度 北東
3088-26 1.00 H15(6) 2,000 上木無 傾斜14度 北
3083-18 1.00 H14(7) 2,000 上木無 傾斜20度 北西
3083-17 1.00 H13(8) 2,000 上木有 傾斜4度 南東
天然林 3096-24 7.00 H16(5) 1,000 上木有(樹冠疎密度70%) 傾斜 3度 北東
植込み 3104-9 10.00 H15(6) 1,000 上木有(樹冠疎密度80%) 傾斜10度 南
3106-5  9.52 H14(7) 1,000 上木有(樹冠疎密度80%) 傾斜15度 南

(注)(1)樹冠疎密度は目測
   (2)2080林班12小班は区域を分けてアカエゾマツも植栽している。


生育状況

(1)調査方法
 本年6月に、樹高及び直径、枯損の状況、樹勢、幹の被害などを全造林地を対象に調査を行った(図-1)。調査の方法は、基本的には任意に選んだ植栽列の植栽木を10本調査し、次いで隣接する列に進み10本調査する方法を繰り返し、全体で100本調査することにしたが、人工林では面積が小さいこと、天然林植込みでは植栽列が複雑に入り組んでいることから、基本通りには進まず、できるだけ作為が入らないように気を付けながら調査した。


写真-1
天然林植込み木の下枝

(2)調査結果
 調査結果は表-2のようになった。
 ○生存率は人工造林、天然林植込みともに比較的高い状況にあったが、天然林植込みは人工林と比較すると枯損率は高い状況にある。
 ○枯損の原因は人工林では誤伐によるものが多く、その他の枯死の原因は不明であるが、暗色雪腐病によるものはなかったように思われる。 また、天然林植え込みでは、その他が多くなっているが、これも雪腐病以外の原因によるものと考えられるが、融雪後改めて観察する必要がある。下枝は健全なものが多い(写真-1)。
 ○人工林では樹高生長、直径成長とも順調で、アカエゾマツ人工林と比較しても遜色ない生育状況にあると思われる。
 天然林植込みでは、上木が非常に多いことから、人工林に比較して成長は悪い。 天然林植込みのエゾマツで特に上木の下にあるものについては、植栽したエゾマツの生長を促進させるために上木の伐採を優先させることは考えていないので、今後どのように成長していくのか観察していきたい。
 ○雪などによる幹の被害も非常に少ない。
 ○エゾマツカサアブラムシの虫えいも見られなかった。

 表-2 調査結果

区分 林小班 調査
本数
(本)
生枯(本) 樹高(cm) 幹の被害(本)
生立木 枯損木 最小 最大 平均 幹折れ 主軸折れ
誤伐 その他
人工林 3080-12 50 40 10 0 33 85 56 3 0
(アカエゾ) 50 46 1 3 39 85 61 0 0
3088-27 100 95 3 2 50 127 86 7 3
3088-26 100 93 4 3 40 210 112 0 2
3083-18 100 89 6 5 90 260 176 0 0
3083-17 100 94 1 5 41 220 110 3 0
天然林 3096-24 100 94 2 4 28 100 56 3 0
植込み 3104-9 100 87 1 12 26 130 56 7 0
3106-5 100 88 1 11 30 156 65 0 0

これからの取り組み

 天然更新を期待し、約0.4haほどのヘリポート跡地に客土し、ブルドーザーで凹凸を意識的に作ったところ、見事にエゾマツ、アカエゾマツ、トドマツが更新した。また、林道の法面にもこれらの針葉樹がよく更新する。エゾマツの造林地も、現在のところ、諸被害も少なく、天然林のエゾマツの生長も形質もともに良好であることからも、この地域はエゾマツを育てる適地であると考えている。
 雄武町の苗畑のエゾマツ苗木も、その後、順調に回復していると聞いているので、来年度から、また、エゾマツ造林を再開できるのではないかと思っている。
 今後とも、エゾマツ造林木の生育状況を観察しながら、当財団森林に最も適した造林方法を模索していきたいと考えている。


参考文献

徳田佐和子・三好秀樹・原秀穂・福地稔・錦織正智・雲野明
エゾマツ造林に関する研究資料Ⅱ.北海道林業試験場研究報告第45号 平成20年3月

○ こちらは「北海道の林木育種」2008 51(2)に掲載されたものです。