Home > 自然普及事業 > 普及啓発事業 > 自然環境保全活動助成事業実績 > 2003年度(平成15年度)自然環境保全活動助成事業報告

自然普及事業
Natural Environment Conservation Activities

2003年度(平成15年度)自然環境保全活動助成事業報告




「恵庭市におけるカワセミ巣箱の研究・設置」

恵庭カワセミの会

 「恵庭市の鳥カワセミの生息環境の保護・創造」を目標に活動をしている恵庭市カワセミの会では、15年度の事業計画として、「カワセミの巣箱の研究・設置」を通じて市民や学校、企業、行政が一体となった環境保護活動の振興と保護思想の向上に寄与することを狙いとし「カワセミ巣箱の研究・設置」の活動をはじめました。また、小学校の総合学習の現場で子供たちが提唱した「カワセミの巣箱」の斬新な発想を何とか実現したいとの思いからでした。

 「カワセミ巣箱」について、我々はまず、成功例に関する資料を収集し分析検討するため日本での成功例をもつ豊橋動物園まで出かけて実物を見学研修をするとともに、実用化されている英国鳥類保護協会から資料を取り寄せこれをもとに巣箱のイメージを作りました。営巣条件が比較的整い自然土壁のない市内柏木川とユカンボシ川を設置場所を決定し関係者へのアプローチが始まりましたが、各方面の関心度の差異におどろきました。特に、道河川管理者と企業社有地への設置に関し積極的協力は当初、得られませんでした。



試作巣箱(裏)製作途中

 それでも、柏木川を総合的学習の場として活用している小学校の先生・生徒とそのPTAで作る柏木川プロジェクトの積極的な協力があり試作・研究用の巣箱1号を学校の校庭の隅に設置できました。恵庭市建設部と島松小学校柏木川プロジェクトの協力により、道への占用許可も取得できました。材料(コンパネ、塩ビ管、土のう袋)を購入しパーツ作りからはじめました。これには、小学校の子供たちとお父さん方々で車や、大工道具を持ち込み特技のある人々が次々と協力してくれました。(写真)5月中に巣箱2号を柏木川沿いに設置完了しました。(写真)ユカンボシ川において用地使用調整が難航していたところ、河川に隣接する地域住民の方からの申し出により巣箱3号の設置場所が決まり、8月に3個目の巣箱をカワセミの会員により設置しました。



巣箱2号完成(表)

 その後、餌となる仔魚の放流、観察会、研究会を続けるとともに、北方鳥類研究所の石川氏を訪問しご教授をいただき、これをもとに巣箱の修理・改良を逐次実施しました。今のところ巣箱による営巣活動は未確認ですが、今後も、多くの方々の協力を求め、研究・改良を加えて新たな巣箱設置に努力していきます。子供たちの「カワセミ巣箱」の発想から始まった巣箱研究・設置は多くの市民・学校・行政・企業の方々への呼びかけと協力により、自然保護思想の啓蒙に少しは寄与できたと思っています。恵庭市内の水辺にカワセミの姿が飛び回る子供たちの夢をともに追って、我々もあきらめずに、一歩一歩ゆっくりと活動していきたいと思っています。



「サロベツ湿原における人為的撹乱後の植生回復の研究」

サロベツ湿原研究グループ

 サロベツ湿原は北海道の北部に位置し、低地の高層湿原の中では国内で最大の面積になります。夏には一面にゼンテイカが咲きほこり、秋にはガンやハクチョウなどの渡り鳥が羽を休めたりするなど、多くの貴重な動植物の生息地となっています。

 サロベツのような高層湿原は、一般的に寒冷な気候などの影響によって植物遺体が腐ることなく堆積していきます。この植物遺体が堆積したものが泥炭といいます。今回調査を行なった豊富町上サロベツでは、この泥炭を園芸や農業用の土壌改良材として利用するために30年前から泥炭の採掘が行なわれています。採掘という人間によって受けた撹乱のあと、植物とそのまわりの環境を調べることによって、植物がどのように回復していくのかについて調査研究を行ないました。


1970年採炭地


ヒメシャクナゲ

 調査の結果、採掘跡地に設定した調査区に出現した植物は全部で37種、そのうち17種は未採掘の高層湿原では観察されない種類でした。採掘されて約10年が経過した頃から植物の定着が観察されました。その後、時間の経過と共に徐々に植生は回復していきますが、本来のミズゴケ類が広く生育している高層湿原の植生とは異なり、ヨシやヌマガヤなどが多く生育する植生になっていました。一部でミズゴケ類が生育する高層湿原と似た植生になっているところがありましたが、その場所は他の場所と比べて地下水位が高く、年間の地下水位の変動が小さいなど、高層湿原の植生には水の環境が強く影響していることがわかりました。また、湿原の地下水をサンプリングし水質分析を行なった結果、水質環境は、一般的に貧栄養と言われる高層湿原の栄養状態とは異なり、採掘によって栄養状態の良い環境が作られていることがわかりました。


トキソウ


1970年採炭地プロット

 サロベツ湿原は、戦後の大規模な開拓によりその面積を大幅に減少させています。昭和49年に利尻礼文とともに国立公園に指定されましたが、その後も放水路の整備などにより現在でも残された湿原に大きな影響を与えています。周辺地域を本来の湿原生態系へと再生、もしくは近づけてやることは、残された湿原の保護へとつながる重要な課題であると考えられます。この研究において植物の回復のメカニズムを明らかにすることで、今後、湿原植生の再生復元の手法の確立につながればと考えています。



「風力発電用風車が鳥類に与える影響調査」

ニムオロ自然研究会

 風力発電は、大気汚染物質や温暖化ガスを出さずに発電できることなどから、近年、地球にやさしいクリーンエネルギーとして注目されています。しかし、風車建設の際に野生生物に対する影響を調査する「環境影響調査」(環境アセスメント)が十分行われておらず、その調査方法や評価方法についても全く確立されていないのが現状です。風車のプロペラ先端部の速度は数百Kmにもなり、猛禽類や夜間飛行する渡り鳥、夜行性の鳥類、またタンチョウやハクチョウのように大型で小回りのきかない鳥類が衝突する可能性が考えられるなど、鳥類に対する影響は懸念材料のひとつとなっています。
 そこで、道内既存の風力発電用風車が鳥類にどのような影響を与えていのかをモニタリングするための調査を実施し、今後の風力発電用風車建設における鳥類への影響という視点から提言していくためのデータ収集と、最も有効な調査方法及び評価方法等について模索することを目的に今事業を実施しました。


猿払ポロ沼(2基)

海岸より50メートルの国道脇に設置。照明設備あり。風車付近でチゴハヤブサの死体を確認したとの情報あり

 調査は、全道に既存する風車施設25箇所を対象地とし、風車施設周辺での落下物捜索調査を主に行いました。根室市の2箇所については、落下物捜索調査以外にも日中の定点観察を毎月1回のペースで実施しました。

 結果は、全道で5施設6個体の風車に衝突したと思われるトビやカモメの死骸を発見。発見した衝突個体のほとんどが幼鳥であり、飛翔能力の弱い若鳥が風に流され衝突したものと思われました。けれども、全調査を通して小鳥類などの死骸確認は全く無く、キツネ、テン、カラス、トビなどの腐肉をも餌とする動物に持ち去られている可能性も考えられ、また、風力発電と衝突した場合、全ての鳥が死ぬとは限らず、傷ついて施設エリアの外で後に死亡する個体等も考慮すると、衝突被害の発生頻度や確立についての判断は非常に困難なものであることが分かりました。今事業の調査で確認された衝突個体についても、被害にあった鳥類のほんの一部にしか過ぎないでしょう。

苫前海岸(3基) においては海岸から約10メートル、段差約40メートルの段丘上に照明設備あり、支柱から約10〜20メートルの地点に2羽のトビの死骸あり、いずれも若鳥と思われた。風車に衝突したものと思われる骨折が見られた。

 しかし、もともと生息数の少ない希少種にとっては、たった1羽の被害でも、その種の生存に大きな影響を及ぼすこともあることから、バードストライクは、単にその確率で影響の有無を図ることは出来ません。
 また、有効な調査方法の模索を目的に、様々な視点から定点観察調査を実施しましたが、我々のような団体には、機材設備などにも限度があり、例えば、夜間に移動する渡り鳥の行動調査など専門機器の必要な調査や、更に、調査結果をどう評価するのかなど、逆に多くの課題を抱える結果となりました。
 今回の事業実施により、国内においても風車へのバードストライクが確かに起きているということが確かなものとなりました。今後も、様々な情報収集や調査を継続し、より有効な調査や評価方法の確立や普及活動に努めたいと思っています。



「北海道の海獣類保護管理の将来」を考える
シンポジュウム開催と報告書作成事業

NPO法人 北の海の動物センター

 北海道周辺には海獣類が豊富に生息し、大変魅力あふれる海が広がっている。そこに生息する海獣類の中には、世界的に個体数が減少しているトド、最近になって北海道東部海域に頻繁に現われるようになったラッコ、そして5種にもおよぶアザラシが含まれている。しかし、海獣類の生息環境が徐々に変化する事により、漁業との軋轢がおこり深刻な漁業被害が発生すると同時に、混獲や網への絡まり、トドについては駆除に関する問題などが浮き彫りになってきている。
 一方、北海道の基盤産業である漁業も、海の環境が変化していることも起因して、漁獲量が減り、魚価が下落し、かつてに比べて衰退してきており、漁業構造の再編を検討する時期に突入している。そんな中、海獣を取り巻く法的状況は徐々に変化し、平成15年4月よりアザラシ類に関して環境省所管の鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護法)が適用された。
 この法律の適用により、アザラシ類の本格的な生態調査が始まり、今後の管理手法に結びつくような取り組みやその成果が求められている。


シンポジュウム開催模様

 トドは水産庁、北海道庁、大学などにより生態調査は行われているものの、駆除の方向性など、繁殖地への影響も考慮した管理手法を模索する時期にきている。
 ラッコは、近年の頻繁な来遊により漁業被害が問題化し始めており、法整備を含め漁業との付き合い方を考える必要に迫られている。このような背景を踏まえ、今後北海道に生息する海獣類とどのように付き合ったら良いか皆さんと共に考える場として、2003年11月23日にシンポジウム「人と獣(けもの)の生きる海−北海道の海生哺乳類管理を考える−」を開催した。


勉強会模様

 また、シンポジウム前日には北海道の海獣類の現状を知ってもらうために若手研究者らによる勉強会を開催し、シンポジウム後にはトドやアザラシの生息地や被害の実情を視察するためのエクスカーションも実施した。シンポジウムは、海生哺乳類からの立場だけでなく、北海道の基盤産業が漁業であることも理解してもらえるような講演者を選別し、海外招聘者は北海道の海生哺乳類管理のモデルになるような地域の担当者にお願いした。参加者はなるべく多くの立場の人が参加できるように同時通訳を導入し、当初の参加予測人数(100名)を上回る参加者を得た。また、これらの一連の内容を、一般の方々にもわかりやすいようにまとめ、書物(報告書)「北海道の海生哺乳類管理」として発行するに至った。