「藻岩山、旭山の菌類観察実践と
樹木観察・実践活動・ボランティア活動」
藻岩山きのこ観察会
藻岩山・旭山記念公園は、大都市札幌の中にあって市民の憩いの場です。林内では、四季を通じて各種のキノコが発生しています。 私たちはここをフィールドにして、菌類特にキノコと樹木の調査・観察活動を進めています。将来は、藻岩山・旭山のキノコに関する小冊子を作ることを大きな目標として、実践を積重ねています。
○観察会
4月から11月までの毎月1回会員が集まって、林内で観察会を行っています。観察会は、会員相互の交流・親睦の外にキノコや樹木に関する観察・分類等の実践活動を行っています。採取物は、きのこアドバイザーや専門家による鑑定会を行い、同定・記録しています。
8月の家族できのこ観察会は、「家族で楽しもう、学ぼう、きのこ観察会」をテーマに、一般の方も含めて約180名の参加を得て交流と親睦を深め、自然を満喫してもらいました。同定結果や記録シート等は次項の通りです。
○記録
観察結果は「観察、採取、種類一覧表」「キノコ乾燥標本」「キノコ生態図鑑」として整理し取りまとめています。H16年は152種のキノコを観察しました。樹木については、藻岩山天然林、旭山自然林・植樹林を観察し、樹木観察一覧表を作成しました。シラカバ林には、ヤマドリタケやカバノアナタケ等多くのキノコが観察されました。記録した樹種は86種でした。
○ボランティア活動 当会は単にキノコの観察をするだけでなく、自然環境保全にも力を注いでいます。観察会の都度ペットボトルやビニール袋等が散見されており、又、林内奥深い場所にも不燃物が捨てられています。毎月1回の清掃活動でゴミ袋4〜5個集まっています。今後とも継続して美化活動に取組んでいくと同時に、パネル展等を通して環境美化を訴えていく予定です。各団体との交流も積極的に行っています。パネル展等を通じて、当会の活動状況をお知らせし、合わせてキノコや環境保全に関する周知・啓蒙も行っています。小中学校の野外学習や部活動に講師として参加し、キノコ観察や研究資料作成のお手伝いを行っています。又、市民団体のキノコ教室からも講師派遣の依頼があり、地域社会と密着した活動になっています。
○都市近郊での定点観察の難しさ カバノアナタケは近年、制ガン性があるということで、いたるところで乱獲されています。旭山西斜面のシラカバの生立木に発生しているカバノアナタケを、数年にわたって定点観測することとし、H16.5から写真撮影等の記録を取りはじめました。しかし、1月には右中写真の通り、鋭利な刃物でえぐり取られてしまいました。付近の立木にも下写真の通りみにくい切り口がつけられました。将来カバノアナタケが発生するようにとつけられたキズと思われます。同地域は公園なので、誰でもが自由に散策でき、遊歩道以外の林内でも人目に付き易い場所です。このような環境での長期にわたる定点観察は、無理があるのかも知れません。意図はどうであれ、自己中心的に自然を破壊する行為がなくなるよう、啓蒙活動をあせらず進めていくこととしました。今後ともキノコや樹木を通して交流を深めると同時に、観察を事業ととらえつつ、自然環境が豊かなものになるようなお手伝いができるキノコ観察会にしたいと思っています。
「北海道におけるアオサギの生息状況に関する報告」
北海道アオサギ研究会
当研究会が調査の対象とするアオサギは、近年その生育状況が急激に変化しつつあり、また分布域の拡大にともない人との間に様々な摩擦が生じ始めている。こうした中、手遅れにならないうちに早急にアオサギの置かれている状況を把握し、アオサギと人との共生に向けて具体的な指針を提供する必要性が高まっていた。当研究会では過去4年間にわたり北海道全域を対象としてアオサギ生育地の現地調査を行い、アオサギの生育状況や繁殖地の環境等を明らかにしてきたが、今回、現地調査がひと通り終了したことを受け、広く一般に調査結果を還元するため、道内のアオサギの生育状況全般についての報告書の刊行を行うに至った。今回の事業では、アオサギの置かれている現状を多くの人に理解してもらうこと、そしてアオサギの保護官理や人とアオサギの共生に対しての意識を高めてもらうことが目標である。
成果品の報告書とCD-ROM
今回、刊行した報告書は142ページで、各繁殖地の概要の記載とともにアオサギの保護管理についての提言も付した内容になっている。また、報告書には同内容のCDも添付されている。これは、CDを複製することによって、より多くの人が簡単に報告書を入手できるようにしたものである。
今回の事業では報告書を208部印刷したが、部数に限りがあるため、アオサギの保護管理に直接関係したり多大な影響を与える可能性のある機関や団体、あるいはアオサギの生育環境に直接影響を与える可能性のある機関等に対し優先的に報告書を送付した。具体的な送付先は、アオサギ繁殖地のある市町村および各支庁、野生生物関連機関・団体、博物館、動物園、新聞・テレビ等のメディア、開発局、環境調査会社などである。
これを書いている現在は事業終了直後のため、今回の事業にどれほどの効果があるかは分からない。ただ、当研究会では今回の事業で情報提供活動を打ち切るのではなく、さらに多くの人に情報が還元できるよう、今回の報告書を叩き台として引き続き様々な手段で活動を続ける所存である。
「子ども向けエゾシカ読本の作成」
野生動物教育研究室WEL
エゾシカの生態やエゾシカを取り巻く環境について、子ども達が楽しく学べる読み物を作成した。本の前半は、絵本仕立てとなっており、北海道の大地に立つ1本のニレの木の視線から、森の移り変わりとエゾシカをはじめ森の生き物達の暮らしぶりを描いた。絵は斜里町在住の絵本作家あかしのぶこさんが描いて下さり、エゾシカや森の様子が細部まで生き生きと躍動的に描かれていて、絵を眺めているだけでも楽しめる。後半は、エゾシカ図鑑として、エゾシカの生態や北海道で起きているシカが関わる問題とその対策などを詳しく解説した。専門用語や難しい言い回しは極力避け、読みづらい漢字にはルビをふった。絵本は小学校低学年向けに、エゾシカ図鑑は小学校高学年向けとしたが、大人でも十分興味深い内容となっている。図鑑のイラストは、西興部村でエゾシカの猟区管理や調査、狩猟者育成講座や有効利用の試みなどを行っている伊吾田宏正さんが描き、おしゃれでポップな雰囲気に仕上げて下さった。少々堅い内容も、読みやすく魅力的な印象とすることができた。
分かりやすい文章と見やすいイラストでエゾシカ問題に触れている
子供向けエゾシカ読本
エゾシカの生態のみならず、幅広い視点からエゾシカを見つめるきっかけを提供できる教材となっている。今、エゾシカが増えて農林業被害など様々な問題が起きているが、なぜエゾシカが増えたのか、どういう状態がエゾシカや森林、人間を取り巻く生態系にとって健全なのかについては、あまり触れられることがない。おそらく、複雑であり、因果関係があいまいなため、明言できない理由からであろう。今回の読本では、敢えて推定の部分も含め、エゾシカ問題の背景に言及した。かつての北海道の森の姿やアイヌの人々の暮らしの知恵から、何かヒントとなるようなものが導き出されるのではないかと期待している。強引な部分もあるかと思うが、ひとつの問題提起として、議論が活発となればよいと思う。現状や対策については、できるだけ第一線の現場に近い正確な情報を盛り込むよう心掛けた。エゾシカによる被害と対策、調査研究、狩猟文化、有効利用など、子ども達が学ぶ機会は少ないであろう。しかしながら、北海道で暮らしていく上で、自然との向き合方や命の尊厳といった大事な問題を含んでいる。できるだけ、多様な視線からの情報を提供したいと思い盛り込んだ。また、これらの社会問題は、正解が一つ決まっている訳ではなく、いろんな立場の人が話し合い、未だかつて経験したことのない領域でよりよいあり方を模索してゆく必要がある。このような社会問題について「考え続け話し合ってゆく姿勢」に、幼い頃から親しむことは大切な教育になると思う。
今回作成したエゾシカ読本1,000部は、子ども向けの自然教室での教材としての使用や道内自然関連施設での有償配布を行う予定である。手にして下さった方々の反応を受け、更に内容に発展させていけたらと思う。また、この教材を活用した自然教育プログラムも広く普及させていきたい。エゾシカ読本が、エゾシカと人、エゾシカと森とのよりよい関係づくりに貢献できれば幸いである。
「知床および釧路湿原地域における侵略種と
生態系撹乱の影響評価・対策のための実態調査」
外来種生態管理研究会
(事務局:北海道大学大学院文学研究科地域システム科学講座)
本事業は,平成16-17年度の2カ年にわたり,わが国を代表する自然生態系を有する釧路湿原および知床の,外来生物(特に侵略的外来哺乳類)の侵入状況を客観的に調査し,対策を提言することを目的としている. 初年度は世界遺産登録を控えてアライグマの生息情報が確認された知床地域を対象とし,環境省事業をサポートする形で,生息痕跡の確認しやすい晩秋から晩冬(平成16年11月から平成17年3月)にかけて,集中的に現地調査(予備調査2回,本調査10回)を行った.平成17年度は,現在準備中の新たな生息痕跡確認手法の試行を行い,市民の参加・協力を得て,知床地域でのモニタリングを継続したい.また,平成16年度は予備調査のみ行った釧路湿原地域においても,同一手法に基づいて侵略的外来哺乳類の生息状況を調査する予定である.
アライグマ目撃地点最寄りの生息適地(サシルイ川,平成16年9月)
調査は,主に湿地および積雪上のアライグマの痕跡発見を主目的とした「生息痕跡調査」と,厳冬期に納屋や農機具倉庫などでの越冬状況を探る「越冬場所調査」の2調査を行った.また,斜里町立知床博物館の協力を得て,過去の生息情報の整理も行った. 結果として,12月には確実なアライグマ成獣の痕跡(足跡)を発見したが,その後厳冬期及び3月末に至るまで,新たな情報は得られなかった.しかし過去の生息情報も加えて検討すると,知床半島中央部(国立公園界および世界遺産エリアの直前)までアライグマの行動圏が達していること,および少なくとも半島基部では周年越冬している可能性が高いことが示された.さらに現地の地形等の情報を考え合わせ,ルサ川-ルシャ川ラインがアライグマ(およびミンク)にとって非常に好適な生息環境であり,ここに侵入した場合には国立公園(世界遺産)地域の奥部まで一気に分布拡大することが懸念された.
斜里町内で確認されたアライグマの足跡(平成16年12月)
即ち,生態系へ不可逆的影響を与える侵略的外来種であるアライグマの,知床(国立公園・世界遺産)地域への侵入を未然に防ぐには,ルサ川-ルシャ川ラインが生命線であり,知床横断道路を防衛線とし,そして両者の間では集中的な侵入状況のモニタリングと捕獲を行うというゾーニングに基づいた対策が有効と考えられた.