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森林保全事業
Forest Preservation Activities


東京農業大学レポート1999年〜2003年(まとめ)

野生エゾシカの餌付け手法による
樹皮食害防止の試み(まとめ)

―1999年度から2003年度までの5年間における給餌の影響―


東京農業大学 増子孝義・高崎ゆかり・福井絵美・森野匡史・春上結希乃・
今泉圭一朗・石川晴和・北沢礼子・工藤博史・北原理作
池田鹿実験牧場 佐藤健二
前田一歩園 高村隆夫・西田力博

目的

エゾシカの越冬地の一つである阿寒湖畔では1993年頃から樹皮食害が目立ち始め、前田一歩園財団が樹皮食害防止のために、1999年度よりエゾシカにビートパルプを給餌した。餌付けにより食害は減少したが、周辺から個体誘引の恐れや冬期の餓死個体数が減少する可能性が考えられる。

また、給餌により個体の行動範囲が狭まり、前田一歩園の森林に集まる個体数が増加し、新たな樹皮食害発生の危険性も考えられる。

北海道の野生エゾシカに対するこのような給餌の試みは例がなく、先に述べたような影響を確認するには継続した調査が必要である。そこで本研究では、1999年度から2003年度までの5年間継続したビートパルプ給餌が樹皮食害防止および餌場利用に及ぼす影響を調査した。

方法

餌付け場所:阿寒湖北西部パンケ林道沿いに1999年度12ヵ所、2000年度〜2001年度19ヵ所、2002年度〜2003年度17ヵ所設置した。また、雌阿寒岳入り口付近1ヵ所、国道南部に2000年度5ヵ所、2001年度〜2002年度4ヵ所、2003年度3ヵ所設置した(図1)。

餌場利用個体数:北西部餌場を週3回1999年度は16時より、2000年度〜2003年度は日没1時間前より餌場付近にいる個体をカウントした。同様に雌阿寒岳入り口および国道南部の餌場においても週1回調査した。

ビートパルプ設置個数:餌場における給餌量を各年度において調査した。樹皮食害調査:ベルトトランセクト法を用い、北西部および雌阿寒岳入り口、国道南部の森林に2m×100mのベルトを複数設け、樹皮食害割合を調べた。行動調査:餌マーカー法を用いて餌場を利用するエゾシカの行動範囲を2000年度〜2002年度に調査した。給餌間隔調査:給餌を一時的に中止した場合の影響について調査した。

結果

1.餌場利用個体数
北西部は1999年度および2000年度では給餌開始から緩やかに増加したが、2001年度から2003年度においては急激に増加した(図2)。有害駆除を実施した1999年度および2000年度、2001年度において、駆除期間中に個体数が減少する傾向が見られた。雌阿寒岳入り口および国道南部の餌場では北西部の餌場より多くの個体が確認された。

2.ビートパルプ給餌量
北西部における給餌量の累計は給餌初年度から増加し続け、2002年度では前年の2倍近くに達した(図3)。全餌場における給餌量は1999年度から2003年度まで毎年増加傾向にあった。

3.樹皮食害調査
北西部では一貫して樹皮食害が防止されたが、雌阿寒岳入り口では北西部よりもその効果が低かった(図4)。北西部では、餌付け開始前と比較して1999年度〜2003年度まで一貫して少なく、雌阿寒岳入り口は、かじった程度の被害が2001年度は2000年度と比較して高かった。国道南部は1999年度から2002年度の被害割合は15%未満であったが、2003年度は30%近くに増加した。

4.行動調査
2000年度において、餌場No.1からNo.0およびNo.2まで、餌場No.1から沢沿いに国道付近まで行動していた(図5)。それ以外の餌場では行動が確認されなかった。2001年度において、2000年度と同じく行動していた。餌場B地点では、A地点付近およびC地点までの沢沿いを行動していた(図6)。2002年度、餌場No.7でエゾシカは、氷結した阿寒湖を横断して雄阿寒岳の麓まで移動していた(図7)。

5.個体の誘導
個体の誘導調査として、餌による個体誘導の可能性を調査した。餌を設置した誘導地点までと、隣の餌場までの約2,660mに個体の移動が確認された(図8)。

6.給餌間隔調査
第1回目の給餌停止後2日目、第2回目の給餌停止後6日目で、かじった程度の被害が発生した(写真1、2)。